下郷は明治23年、県下の多額納税者15名による互選によって第1回の貴族院議員に当選したが、当時選挙権並びに被選挙権をもつ15名の多額納税者の内訳は神崎郡五箇荘村が一番多くて4名、坂田郡長浜町(長浜市)と犬上郡高宮村(彦根市)、野州郡西村が各2名だった。当時の県内の長者15名は次の通り。
(明治23年4月1日調査)
神崎郡五箇荘村 従六位 外村宇兵衛(天保14年生)
納税総額
1274円42銭6厘
地租
1071円34銭6厘
所得税
103円8銭
神崎郡五箇荘村 猪田五兵衛(嘉永2年生)
納税総額
912円83銭7厘
地租
902円92銭2厘
所得税
9円91銭5厘
愛知郡豊椋村 小林吟右衛門(弘化2年生)
納税総額
753円71銭1厘
地租
448円23銭6厘
所得税
365円47銭○○
坂田軍長濱町 河路重平(嘉永6年生)
納税総額
664円62銭
地租
647円60銭7厘
所得税
17円1銭3厘
野州郡西村 杉本理三郎(安政5年生)
納税総額
570円14銭9厘
地租
563円38銭9厘
所得税
6円76銭
野州郡守山村 南喜右衛門(天保4年生)
納税総額
480円20銭8厘
地租
464円93銭8厘
所得税
15円27銭
野州郡西村 田中兵治郎(嘉永5年生)
納税総額
468円90銭6厘
地租
463円70銭6厘
所得税
5円20銭
蒲生郡北比都佐村 鈴木忠左衛門(嘉永6年生)
納税総額
457円1銭7厘
地租
164円7銭7厘
所得税
292円94銭
坂田郡長濱町 従七位 下郷傳平(天保13年生)
納税総額
1129円1銭9厘
地租
950円71銭9厘
所得税
178円30銭
神崎郡五箇荘村 藤井善助(天保5年生)
納税総額
762円3銭2厘
地租
748円87銭7厘
所得税
13円15銭5厘
犬上郡高宮村 吉田興三平(文政11年生)
納税総額
735円69銭3厘
地租
699円45銭3厘
所得税
36円24銭
野州郡北里村 井狩弥左衛門(弘化元年生)
納税総額
607円21銭9厘
地租
592円14銭4厘
所得税
15円7銭5厘
犬上郡高宮村 馬場庄蔵(弘化2年生)
納税総額
517円78銭5厘
地租
509円14銭5厘
所得税
8円64銭
神崎郡北五箇荘村 山中利右衛門(安政3年生)
納税総額
473円31銭
地租
440円85銭
所得税
32円46銭
大津町 藪田勘兵衛(天保6年生)
納税総額
466円33銭2厘
地租
440円25銭2厘
所得税
26円8銭
明治23年の滋賀県下の多額納税者上位15名は大蔵省の納税実績による公式記録であるが、その2,3年後の明治25、6年ごろ、大津で発行していた産業雑誌に江州実業家十傑が発表された。
これは雑誌社による企画で県民の人気投票によるものであるから必ずしも権威ある資料とはいえないが、当時の超A級近江商人の顔ぶれを知ることが出来る好資料といえよう。
10人の氏名は次の通りでいずれも本紙に登場している。
弘世勘三郎(彦根)、下郷傳平(長浜)、西川貞二郎(八幡)、中井源右衛門(日野)、珠玖源右衛門(愛知郡栗田)、塚本定右衛門(五箇荘)、阿部市郎兵衛(能登川)、浅見又蔵(長浜)、伊庭貞則(八幡)、塚本粂右衛門(五箇荘)。
下郷傳平は少年のころから親の借金を背負って苦労しただけに、貧しい人への思いやりと、教育に対しては社会奉仕の念が強かった。万延元年(1860)凶作のため米価が高騰し、生活に窮するものが増えた。傳平はこれに同情して夜ひそかに店員を伴い、名を告げずに貧しい家々に米代をプレゼントした。以来、飢饉の年や極貧者があれば必ず援助の金品を差し出した。
明治初期、滋賀県庁新築の際には率先して1000円を、又明治21年には多額の国防費を献金している。明治22年3月、下郷は長浜小学校の新築を提言し、私費で一大校舎を建設すべく、時の戸長(町長)渕元八郎平に3000円の寄付を申し出ている。彼は明治23年の納税額1129円で県下第2位の多額納税者になっており、その前年の3000円は実に想像を越える巨費というべきであるが、彼の教育への熱意は一部反対者の横槍で実現を拒まれ、長浜町民は不幸な結末となった。
彼は3000円の寄付申し入れに当たり「教育が進まねば人材が開発されず、産業も興らずして国家に益しない。今の小学校は狭すぎて教育環境上適しない。さらに高等小学校を設立して教育を拡充し優秀なる人材を養成して国家のために役立たせたい」と熱意を訴えているが、彼の反対派は「学校は公共のもので一般的子弟を教育する場所であるから一私人の手で建設すべきではない」と町会でも反対論を唱えたため彼の善意は潰された。
昭和12年、犬上郡豊郷町に東洋一の豪壮な豊郷小学校建設された。敷地、校舎、備品一切の費用50万円に加えて後々の維持費、備品、教員住宅費10万円を同町出身の伊藤忠の専務古川鉄次郎が一人で寄付した。下郷の寄付を反対した当時の長浜町の一部の不見識が思いやられる。
もくじ
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